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「おもしろい」マンガとは何か?

お久しぶりです。
スタジオGANMA!東京のマンガ編集者Sです。

この記事では、僕が担当している新人マンガ家さんや、GANMA! に持ち込みに来てくださったマンガ家さん、出張編集部で出会ったマンガ家志望の学生さんと話す時に、絶対と言っていいほど話すくらい、大切なテーマがあります。
それは、「おもしろいとは何か」についてです。
マンガを作り始めるにあたって重要な「おもしろいとは何か」。その心得の部分について説明していきたいなと思います。

「おもしろい」って難しい概念

「おもしろい」って難しい概念ですよね。普段、僕たちが「おもしろい」と思うとき、ふわっとなんとなく感じるようなものではないでしょうか?なんとなく感じるからこそ「おもしろい」と思う対象は人によって様々だと思います。

例えば、編集者になる前の僕は、ホラージャンルの作品をおもしろいと思うことが出来ませんでした。ですが、今では、おもしろがって読むことができるようになってます。このように、ホラーをおもしろいと感じる人もいると思いますし、当然ホラーをおもしろくないと感じる人もいると思います。

読み手個人の中で変化する「おもしろい」、読み手ごとによって異なる「おもしろい」。「おもしろい」とは、受け取り方によってその都度変わってしまう難しい概念です。では、「おもしろい」の正体とは一体何なのでしょうか?

これから書く記事は、僕が入社して間もなく読んだ、井村光明さんの『面白いって何なんすか!?問題――センスは「考え方」より「選び方」で身につく』(https://www.amazon.co.jp/%E9%9D%A2%E7%99%BD%E3%81%84%E3%81%A3%E3%81%A6%E4%BD%95%E3%81%AA%E3%82%93%E3%81%99%E3%81%8B-%E5%95%8F%E9%A1%8C%E2%80%95%E2%80%95%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%B9%E3%81%AF%E3%80%8C%E8%80%83%E3%81%88%E6%96%B9%E3%80%8D%E3%82%88%E3%82%8A%E3%80%8C%E9%81%B8%E3%81%B3%E6%96%B9%E3%80%8D%E3%81%A7%E8%BA%AB%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%8F-%E4%BA%95%E6%9D%91-%E5%85%89%E6%98%8E-ebook/dp/B08CZLBDB4)を参考にし、重要な部分をマンガ制作の実態に合わせて考えていったものになります。(興味がある方、本記事を読んで勉強になったと思った方は、ぜひ手に取ってみてください。)

それでは本題ですが、「おもしろい」って何か、それについて考えていきたいと思います。読み進める前に少し時間を取ってみて自分がどんな時におもしろいと思うのか、その状況について思い浮かべてみましょう。


考え付いたでしょうか?

少年バトルマンガで新しい必殺技が出てきた時がおもしろい

ラブコメで主人公とヒロインが恋心に気付いて相手を意識しているシーンがおもしろい

ホラーで悪いやつに主人公が追い詰められているときがおもしろい

今、思い浮かべてもらったシーンは、どれも間違っていないと思います。でも、ラブコメにバトルマンガのような新しい必殺技はいらないですし、ホラーをおもしろくするために、必ずしも登場人物たちのラブコメ展開はいらないですよね。
(ちなみに、個人的にはラブコメジャンルでも主人公が追い詰められたり、ちょっとくらいなら少年マンガにラブコメ展開があってもおもしろいかもと思いました。)

上記のように、そのジャンルのおもしろいものは、必ずしも他のジャンルに必要ではないことがあります。「おもしろい」とは何かを問われると、僕たちは簡単に、どういう状況か、どういうシーンかを思い浮かべることはできるし、おススメの作品を他の人に紹介するときに簡単にその作品の「おもしろい」ところを話せると思います。でも、そこで語られる「おもしろい」ものは、必ずしも作品に共通していなかったりします。単純にその人が、その作品の好きな部分的なものであることが多く、作品全体を表すおもしろさではないことが多々あります。マンガを考えるうえで「おもしろい」とはそれくらい難しい概念だと思います。

僕が実際に持ち込みや出張編集部でマンガ家さんとお話ししても、作家さんからおススメの作品の好きなシーンや好きなキャラクターがあがっても、作品全体の「おもしろい」に答えられる人はなかなかいません。

ちなみに僕もこの質問を受けたとき答えることができませんでした。

読者は「理解できなくなったとき、見慣れた展開だと思ったとき」に、おもしろくない作品だと思う

「おもしろい」のような難しい概念を考えていくとき、余分な部分、つまり「面白くない」部分を削り落としていくと、「おもしろい」の本質に迫ることができます。(ちなみに話は逸れますが、研究者のなかでは当たり前であるこの考え方を、僕は「粋」ってなんだ?を研究した九鬼周造の『「いき」の構造』で学びました。)

つまり「おもしろい」をひっくり返してみて、「おもしろくない」とはどういう状況なのかを考えてみるとしましょう。

作品を読んでいて、「おもしろくない」ときはどんな時を想像しますか?

人と会話して「おもしろくない」ってどんな時を思い出しますか?と質問した方が思い浮かびやすいかもしれません。そうすると、どんな状況であっても2つの条件が共通していることが見えてきます。

条件1:状況が分からないし、知らない人の話をされてもおもしろくない

例えば、一つの目の条件に関する、「おもしろくない」会話について僕が考える時、電車とかカフェとかで聞こえてくる全く知らない人が誰かに告白したが振られたの噂話であったり、居酒屋でバイトをしていたときの2個上の先輩たちがする過去に在籍していた人の逸話を思い出します。

本人たちは至っておもしろそうなのに、何故おもしろくなかったのか思い返してみると、
何についてなのか、
誰についてなのか、
何の話題なのか、
話されている内容が分からない、そんなときにおもしろくないと感じたんじゃないかなと思います。

当然、知らない登場人物について話されても興味を持てません。

「○○さんが××さんに振られた!」などの結果についても、関わった人物の背景が分からなかったり、どんな感情だったかが説明されていないと話についていけません。
結果として聞いていても「おもしろくない」時間になっていたなと思います。

(テレビ番組「すべらない話」に登場するお笑い芸人さんたちの話は、知らない登場人物の話をしたりしますが、何でおもしろいのか、ぜひ研究してみると発見があるんじゃないかと思います。)

「おもしろい」マンガは、登場人物の感情が理解できるし、何をしているかが理解できる!

これをマンガに置き換えて考えてみましょう。
マンガを作る際に、作り手側の人間は沢山の設定をつくって物語を考え、プロットやネームをつくります。すると、作り手自身はおもしろいと思って作っても、読み手である読者や編集者の反応がイマイチなことが多々あると思います。

何故そのようなことが起こるのでしょう。
作り手側は設定を沢山準備して、主人公がどんな感情なのか理解してそれを前提にネームを描いていますが、この段階で前提とするべき設定や感情のシーンが抜け落ちてしまったりします。

前提をすっ飛ばして描き始めてしまうと、読み手側はその前提となっている設定や主人公の感情を知ることができないままマンガを読み進めることになってしまうのです。そのため、マンガ家さんが用意した主人公の感情や、設定がイマイチ読み手側に伝わってないのでおもしろさに繋がってこないのです。

描かれているものを初めて見る人に伝わっているかどうかを考える時にも、上記を意識してみてください。自分の作った設定を知らないテイでネームを読み返す、などがおすすめです。恋愛マンガでいきなり「○○さんが好き!」となってもついていけないですし、、いきなり特殊な必殺技をだされても、読み手としては「?」が思い浮かんでしまうわけです。

正直、僕はこういいつつも、マンガ家さんと一緒に作品をつくっていると、分かりやすいか、理解しやすいかどうかが抜け落ちてしまい、上司や同僚に意見をもらって気付いたりすることがあります。

つまり、一つめの結論ですが、マンガを読んだときにおもしろくないと感じるのは「何を描かれているのかよく理解できないとき」であり、マンガとして目指したい状態は「何が描かれているか理解できように物語をつくる」ということになります。

条件2:次の展開が予想出来てその通りになってしまったり、その展開は見飽きたと思ってしまうとおもしろくない

次の条件に当てはまる、おもしろくない出来事について思い返してみましょう。
校長先生が学期末に話してくれる演説や、パチンコ屋でバイトしていた時に10コ上の社員さんが休憩中にする何度も聞いたよって思うトラブルの話がよみがえってきました。

僕が通っていた学校の校長先生がしてくれる5~6分の演説と言えば、特に季節以外代わり映えが無い話だったなと思います。バイト先の社員さんの話は言わずもがな、何度も聞いたことあるよ!って感じでしたね。みなさんも似たような経験があると思います。

「おもしろい」マンガの展開は、読者の期待に応えつつも予想は裏切っていく

話は戻りますが、現代の読者さんは沢山の作品コンテンツに溢れている中で成長していて、目が肥えています。そのため悲しいことに、マンガ家さんたちが一生懸命マンガを描いても、その作品の中で、ここでこうなるだろうと予想がついてしまいます。「主人公の前に敵が現れて、ピンチに陥るが、新しい必殺技で倒す」というバトル展開だったり、恋愛ジャンルだと「ヒロインが新しい登場人物のせいで、ヒーローと喧嘩してしまい、結果として仲直りする」という展開が続いてしまうと見飽きてしまうのです。

実際、自分が読者であるとき、マンネリだなと思ってしまうと追い続けるのを忘れていたりしてしまいますよね。

そのため、常に、展開を考えていく上で、読者さんの予想を裏切っていくことで、ようやく読み続けてもらえるようになります。ここで、予想を裏切る上で注意するべきことがあります。予想を裏切りつつも、読者の期待に応えていく必要があるのです。実際、自分が読み手側だと、期待に応えてくれない作品は追っかけるのを止めてしまいますよね。僕も、自分の期待に応えてくれない大人の人には付いていくのを止めてしまいます。

読者に何を描いているのか理解できるようにし、予想できない展開を作る

以上、「おもしろくない」とは何かについて考えてきました。
おもしろくない作品は、
①何を描いているのかが理解できないとき

②見慣れた展開だと思ったとき
上記のどちらかが当てはまっている状態だと考えます。
では、「おもしろい」とは何なのでしょうか。

僕はおもしろい作品とは、『読者に何を描いているのか理解できるようにし、予想できない展開を作る』ことだと考えています。
なので、担当につかせてもらったマンガ家さんにはそれを求めていきます。

どちらかを満たしているとき、例えば「何を描いているのか分かる」だけでも、おもしろいとはなりません。、「予想できない展開」があったとしても、何の話か分からなければ面白く感じることはできないでしょう。

分かることと、展開が予想できないことの両方を満たしていないと読み続けてもらえるマンガにはならないということです。
それはとても難しいことだなと思います。

以上のことを当たり前のように意識できると、物語を作る上で読者さんに「おもしろい!」と思ってもらえるようになるのではないかと思います。
この文章が少しでも役に立ったらいいなと思います。

以上、長くなりましたが、僕が考える「おもしろい」マンガとは何か?でした。GANMA!では、通常の原稿応募に限らず、オンライン上での持ち込み講評も実施しているので、ぜひ予約して編集者の生の意見を聞きに来てください!

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