【萌語り対談】怖いけど萌える…!? 「ちょっと危険」どころではない「異形」男子の魅力とは 昨今の「異形」についてマンガ編集者と語ってみた
「異形」と聞いてあなたは一体何を思い浮かべますか?
「異形」
そのおぞましい響きから、一体何を想像するだろうか。妖怪や化け物、はたまたニャルラトホテプといった神々だろうか。唐突に「異形」と言われてもピンとこないかもしれないが、簡潔に言うと
魂や姿が普通の人間と違った、どこか浮世離れした「人間」ではない何か別の存在。それが「異形」である。
そんな「異形」(異類とも言う)が今、小さなブームを起こしている。
ときには人の形をしていないこともあり、様々な姿を有する異形という存在。そんな「異形」は時に「謎めいた魅力的な男性」として描写される。人の倫理基準が通用しない彼らの危うい魅力…人はどうして「異形」に惹かれるのだろうか?
本記事は、GANMA!編集部のK澤氏と「異形男子の魅力とはなにか?」について語りあう記事である。
K澤氏がどこに萌えを感じるのかを語り、性癖理解の一助にしてもらえれば…というのが大まかな趣旨だ。そのため、本来であれば異形頭やクリーチャー、無性や女性などの異形についても語るべきなのだが、本記事はとっつきやすい初級編ということで「見た目は人間っぽいが中身は人間とかけ離れている魂が異形の概念」について主に取材した。
「異形の男の子ってちょっと怖いな〜、人間じゃダメなのかな〜」という方むけへの初級編だとおもっていただければ幸いだ。
本記事における異形とは
姿かたちが異なる存在。時には人に似ていることもあるかもしれないが、本質的には人間とかけ離れた存在。
※一部誤解を招く表現がございました。
登場人物
K澤氏
GANMA!の敏腕編集部員。異形萌を極めて10年。
たなか
この記事のライターでありコミックスマート(株)のしがない平社員。
たなか:
今回は「異形男子」について語ろうということで、GANMA!編集部員K澤氏と対談形式でお話していただければと思います。
K澤氏:
はじめまして。異形萌を極めて10年。K澤です。
たなか:
早速ですがですが、K澤氏が考える異形の魅力とはどんなところでしょうか?
K澤氏:
そうですね…。やはり異形の魅力は「危険な雰囲気」にあると思います。
たなか:
危険な…!雰囲気…!
危険な男はいつだって魅力的である
K澤氏:
そもそも、危険な男性って昔から人気じゃないですか。優しいだけの人より。それで言うと、「異形」ってスーパー危険な男だなって思うんですよね。人間とちょっと違う哲学を持っていて、何を考えているかわからない。ひょんなことから急に牙を剥いてきそうなあぶない奴、それが異形の魅力だと思います。
たなか:
でもそれって単純に怖いだけなような…?
K澤氏:
確かに普通に居たらただの不気味で危険な絶対に近づきたくない奴でしかないのですが、異形の萌えるところは異形には異形なりの愛情があるところなんですよね。人間を愛したい、大事にしたい、と思っているのにそれがうまく噛み合わない、というところが危険で切ない。
過去いいな〜と思った事例なのですが、ロボットのキャラクターが病気で動かなくなった主人を助けたいが故に解体して殺してしまう、みたいな描写があって。機械って壊れたら一旦解体して中身を見るじゃないですか。自分と同じだと思ってるんですよね。ロボットとしては、本気で治って欲しいし心配している。でも人間とロボット(異形)の間には超えられない倫理の壁があって、無垢な異形の愛情は時に人間に致命傷をあたえてしまう。その危険で切ない感じが異形の萌ポイントとでも言いましょうか。言ってみれば「優しさが人間の尺度と違う」ということなのですが、そういうところが異形の魅力ですかね。
↓異形には人間の常識は通用しない
たなか:
ひえ…っ!でも、異形としては人間への愛情はすごくあって、危害を加えるつもりもないんですもんね…。
K澤氏:
そうですね。普通にやったら、それは愛情表現…なのか?みたいことを平気でやってくる。それは優しさとか愛情の尺度が全く人間と異なるからなんですよ。そのへんの危うさがやっぱり魅力なのかな〜と思います。愛されているのに常に危険と隣合わせ。最上級危ない男ですよ。
たなか:
愛情を無尽蔵に注いでくれるにも関わらず危険なドキドキも同時に味あわせてくれる…つまり、優しい王子様的なヒーローと危険なダーク系ヒーローのいいとこ取りというわけですか…。
K澤氏:
そうですね。やはり優しいだけのヒーローだと刺激が足りなくなりがちなのですが、異形にはそれがない。溢れんばかりの愛情を注いでくれるにも関わらずいつもドキドキハラハラさせてくれる、しかもそれは打算のない純粋な愛情というわけです。これは人間社会で生きてきた普通の男ではなかなかに出せない味ですよ…。
会話はできるが意思疎通は困難!
コミュニケーションが取れそうで取れないのが異形の魅力
たなか:
そういえば私、「こっちが何回言っても理解してくれない人間の規範が通じない」キャラクターが登場する物語が結構好きなのですよね。人間の姿をしている相手に「おはよう」と声をかけて「うるせえ!」って返ってくるのではなく、「いただきます」って返ってくるかんじというか…。こういうのも異形独特の危険さの一部に入ると思うのですが、これって、もしかして異形萌の素質があったりするのでしょうか。
K澤氏:
いや〜それはかなり素質がありますね。人間の社会的規範が通じないのは異形ならではの魅力なので。異形が出てくる物語にありがちなのですが、人間の命の重みがわかっていない異形に対して、「人は殺しちゃだめだよ」と教えるシーンがよく出てきます。そういうときの異形は、本当に人を殺してはいけない理由を理解したわけではなく、「そう言われたから」という理由だけで人を殺さなかったりします。会話ができるのに本当の意味で意思疎通は困難なんですよね。お互いを思い合っているのに結局理解し合えないといいますか。
たなか:
なんか…切ないっすね…。
K澤氏:
ええ…でもみんな切ないのは萌えるので仕方ないですね…。
↓本当の意味での意志疎通ができないのでこんなことも…
「未知の世界」への導き手、それが異形である
K澤氏:
私の持論として、「神隠しが嫌いな女子は居ない」というものがあるんです。
たなか:
ほう…神隠しですか。あまり考えたことのなかったテーマですが…。一体異形とどういう関係が…?
K澤氏:
神隠しと言っても大それたものではなく…簡単なものでいいんです。自分の世界を広げてくれる事柄、と言ったほうがいいかもしれませんね。少女マンガのヒーロー像として、知らないところに連れて行ってくれる男性ってあるじゃないですか。学校行こうぜ!と連れ出されて、バイクの後ろに乗せられて気づいたら海に連れて行かれて胸キュン…。みたいな。あれと同じで異形ってつまりそういう「知らない世界」を容易に見せてくれる存在の究極形だと思うんですよね。知らない世界を見せてくれる=神隠しの象徴。なので、神隠しが嫌いな女子は居ないのではないのかな…と。めちゃめちゃ主語でか表現になっちゃいましたけど。
たなか:
た…確かに…!異形の世界なんて、一般ピープルからしたら完全に知らない世界ですもんね。
K澤氏:
そうですね。海に連れて行かれて胸キュン…の根源を探れば、神隠しにたどり着くのかなと。自分の意志とは関係の無いところで知らない世界に導いてくれる存在とでも言いましょうか。異形と関わるということは否応なく「異形側の世界」を見せられる、ということじゃないですか。異形男子は、「新しい世界」に導いてくれる男性像の象徴なんですよね。
たなか:
今流行りの異世界転生ものとかも「別の世界に自分の意志とは関係のないところで行きたい」という欲求は同じなのかもしれませんね。
K澤氏:
異形が見せてくれる世界は異世界転生ものよりはちょっとダウナーなかんじですが…ちょっと違う世界に行って帰してもらえない、というのはまあみんな好きなんでしょうね。『王家の紋章』などといった昔の少女マンガもそういったテーマですし。そして、その導き手に異形はなり得る、ここが異形が人気である所以の一つではないかなと思います。
↓どんな「知らない世界」に連れて行ってくれるかは異形次第である
人間と生きてる世界が違うからこそできる!編集者から見た「異形」というキャラクターの強み
K澤氏:
上記でお伝えしたように、「人間と優しさの尺度が違う」「知らない世界を見せてくれる」というのは異形の萌えるという点でもあるのですが私が異形を推すのにはもう一つ理由があります。かなり編集的な視点になってしまいますが、異形は物語を作る上でも都合が良いんですよね。
たなか:
ほう…。といいますと…?
K澤氏:
少女マンガでよくある強引な男の子は、たまにちょっと「法律に触れるのでは?」みたいなときがあるじゃないですか。読者のリテラシーも昨今どんどんアップデートされているので萌えるけど法が頭をよぎって純粋に楽しめない!という人もいると思うのですよね。
たなか:
確かに!私も「寝てるヒロインに許可なくキスする」みたいな少女マンガにありがちなシーンにモヤってしまうタイプなのでわかります。
K澤氏:
でも…異形なら大丈夫なんですよ………。人間じゃないので…。
たなか:
そんな法の抜け道みたいな…。
K澤氏:
想像してみてください…。道端で出会った知らないサラリーマンに同意なく顎クイされたらどんなにイケメンでも「やめてください!」となりますよね。ですが、それが人里離れた山奥で出会った九尾の狐の化身(イケメン)だったら……?
たなか:
え……嘘………!
許せる………!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
※個人の主観です
K澤氏:
異形はね。人間の法とか知らないんで。人間の法とか難しいことわかんないんで。
K澤氏:
これを私は「倫理観マジック」と呼んでいます。
そういうところを難なく飛び越えて読者に安心感を与えながら楽しませることができるのが異形の良さの一つですよね。25歳の社会人が17歳に手を出したらアウトなのですが、1200歳の妖怪が17歳に手を出しても犯罪感ないんですよね。
たなか:
不思議だ…物事の事態は確実に悪化しているのに…。
K澤氏:
法の拘束力を受けない。
そこがやっぱり異形のいいところだな〜とは思いますね。
↓見よ!これが倫理観マジックだ!
異形萌のハードルは実はかなり低い
K澤氏:
そんなこんなもあって、異形って個人的にはモテのすべての要素を含んでいるのでもっと気軽に楽しんでほしいんですよね。
たなか:
危険な雰囲気や純粋さや自分を導いてくれる男性像といったところですね。すごくわかるのですが、改めて「異形好きです!」というとなにか特殊な性癖を持っていると思われそうで…ちょっと公(おおやけ)にはしにくい感じもします。
K澤氏:
いやいや、異形って言っても、今回は「魂の異形」についての概念をテーマにしているので今はハードルを低めにとらえていただけると。初級編なのでニャルラトホテプみたいな完全に人外のものじゃなくてもいいんですよ。異類異形って言葉もありますし。
ニャルラトホテプとは
ナイアーラトテップ (Nyarlathotep) は、クトゥルフ神話などに登場する架空の神。日本語では他にナイアーラソテップ、ナイアルラトホテップ、ニャルラトホテプ、ニャルラトテップなどとも表記される。
姿は触腕、鉤爪、手が自在に伸縮する無定形の肉の塊と咆哮する顔のない円錐形の頭部によって特徴付けられる。
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より抜粋
魂の異類であれば某刀ゲームのように、普段の見た目は完全に人間でもいいですし、某有名タイムスリップ戦国妖怪マンガのように耳だけとかちょっとした要素でいいんです。考え方や行動規範が今現代に生きている人間と大幅に違っていたりすれば魂は異類異形と言っても差し支えないかと…。もっとハードル低く皆さんには異類異形ライフを楽しんで欲しいですね
たなか:
なるほど…私もかなり異形が登場する作品を見たくなってきました。
K澤氏:
そんなたなかさんに紹介したい作品があってですね…。
GANMA!で連載中の『鳴海先生はどこか妖しい』です。
『鳴海先生はどこか妖しい』作品紹介
『鳴海先生はどこか妖しい』
感情を表に出すのが苦手な鈴(すず)。とはいえ、そんな彼女のことを深く理解してくれる親友と「先生」が常に傍で励ましてくれていた。しかし、そんなある日、親友が謎の怪奇事件に巻き込まれて失踪してしまう。「先生」の不思議な力を借り、親友を取り戻すが、鈴は「先生」についてある違和感に気付いていく……。
たなか:
ダイレクトマーケティングだ!
K澤氏…もしかしてこの作品に登場する先生って…。
K澤氏:
そうです。異形です。(モロネタバレ)
もともと作者の西賀スオミ先生と私の異形萌の性癖が合致して企画に至った作品なのですが、本作に登場する「先生」も上記でお話した通り「優しさが人間の尺度と違う」タイプの異形なんですよね。なのでヒロインの鈴ちゃんも、今後先生の危ない愛情に晒されることになります。
現在(6月2日時点)2話まで公開中なのですが、異形萌の限りを尽くした展開を予定しておりますので、もし本記事で「異形…ちょっといいな」と思われた方はお楽しみいただけると思います!
はたして先生の正体は妖怪なのか、ロボットなのかはたまた神なのか…それは本編で明かされるのでぜひご覧ください!
↑第1話より抜粋
すでに不穏で危険な雰囲気がガンガン伝わって来る
『鳴海先生はどこか妖しい』は
GANMA!にて火曜日に更新!
『鳴海先生はどこか妖しい』は隔週火曜日更新だ。
なお、5月26日(火)の一般公開開始から3週間は特別に毎週最新話をお届けする。火曜日はGANMA!で『鳴海先生はどこか妖しい』をぜひお楽しみいただきたい。
『鳴海先生はどこか妖しい』作品ページはこちら
GANMA!ダウンロードページはこちら
ここまでお読みいただけた読者なら、十分に異形の魅力を知っていただけたことだろう。これであなたも異形萌になったはずだ。
ようこそ、新しい世界へ……。
Welcome to Underground…
文責:たなかりいこ